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    中小企業の人的資本経営を止めるのは「お金」と「時間」|3軸で進める実践法

    「人的資本経営に取り組みたい。でも、そんな余裕がない」

    地方の中堅・中小企業の経営者様から、私どもが最も多くいただくお言葉です。

    結論から言えば、中小企業の人的資本経営が進まない最大の原因は、人材面の課題だけでなく、人材に投資するための「お金」と「時間」に余裕がないことにもあります。

    研修を組みたくても、その原資がない。育成に時間を割きたくても、経営者も管理職も日々の業務に追われている。この状態でいくら人事施策だけを積み上げても、長続きしません。

    そこで当社が実務でもよく使っているのが、

    「ビジネスモデル」×「AI/IT」×「人材」

    という3つの軸です。本コラムでは、この3軸がなぜ必要なのか、そしてどの順番で手をつけるべきかを解説いたします。

    1. 人的資本経営は「人材課題の解決」だけでは完結しない

    人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、採用・育成・配置・評価・エンゲージメント強化といった施策を通じて、中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方です。

    言葉だけを見ると、「人材課題を解決すれば良い」と受け取られがちです。しかし、ここには大きな落とし穴があります。

    人材への投資は、無償ではできないということです。

    • 研修を行うには、研修費用と、社員が現場を離れる時間が必要です
    • 評価制度を作り直すには、設計の工数と、運用に耐える管理職の時間が必要です
    • 採用力を高めるには、採用広報への投資と、選考・受け入れに割く時間が必要です

    つまり人的資本経営とは、「人への投資に回せる原資を、経営としてどう捻出するか」という問題とセットなのです。ここを飛ばして人事施策から入ると、最初の数か月は動いても、繁忙期に入った途端に止まります。

    2. 中小企業で人的資本経営が止まる2つのボトルネック

    2-1. ボトルネック①「お金」——利益構造に投資余力がない

    人材投資の原資は、最終的には利益から生まれます。

    薄利多売の受注構造、価格決定権を握れていない下請構造、原価が見えないまま続いている既存事業。こうした状態では、売上が伸びても手元に残らず、人材投資の予算は真っ先に削られます。

    実際、教育訓練の実施状況には企業規模による差が表れています。厚生労働省「能力開発基本調査」(令和3年度)によれば、OFF-JT(業務を離れての教育訓練)を実施した事業所の割合は、従業員30〜49人規模で51.0%、1,000人以上規模で87.2%と、大きな開きがあります。

    これは「中小企業が人材育成に無関心だから」ではありません。やりたくても原資がないという構造の問題です。

    2-2. ボトルネック②「時間」——現場も管理職も手が空いていない

    次のボトルネックが時間です。

    人的資本経営の実務は、そのほとんどが管理職・幹部層の仕事です。1on1、目標設定、評価面談、育成計画、そして社員との対話。いずれも「本人が現場で手一杯」の状態では、形だけの実施に終わります。

    • 見積作成、日報転記、請求処理、シフト調整といった定型業務に管理職が時間を取られている
    • 情報が紙とExcelに分散し、集計のたびに人手がかかる
    • 属人化により、特定の社員が抜けられない

    この状態で「育成に時間を使ってください」とお願いしても、現場からすれば無理な相談です。

    2-3. ボトルネック③「人材」——知識・ノウハウのある人材がいない

    最後に、人材です。

    お金と時間の創出に向けた改善ができる人材がいない、現場業務だけでなくマネジメントを教えられる人材がいない…。中小企業はリソースが限られているからこそ、すべての課題に対応できる人材を揃えるのは困難です。

    特に大きな課題なのが「若手人材」です。採用・育成・定着が難しく、結果的に自社人材の年齢層が40代中心になってしまう…というケースはよくあります。

    つまり、お金と時間の余裕を確保しても、その余裕を正しく活用していかなければ、人材のボトルネックは解消しないということにもなります。

    3. 当社の結論:ビジネスモデル×AI/IT×人材の3軸

    この2つのボトルネックを踏まえると、中小企業の人的資本経営に必要な打ち手は自ずと決まります。

    軸解決するもの主な打ち手
    ビジネスモデルお金の余裕収益構造の見直し、高付加価値化、価格戦略、新規事業、販路拡大
    AI/IT時間の余裕業務プロセスの棚卸、AI・ITツール導入、定型業務の自動化、情報の一元化
    人材付加価値の余裕採用力強化、育成の仕組み化、評価・等級制度、エンゲージメント向上、人的資本開示

    3-1. ビジネスモデル——人に投資できる利益をつくる

    まず、稼ぎ方そのものを見直します。

    同じ労働時間でより高い付加価値を生む構造に変えることができれば、人材投資の原資が生まれます。取引条件の見直し、粗利率の高い商品・サービスへのシフト、既存顧客からの深耕。派手な新規事業でなくとも、利益構造は動きます。

    そして何よりも考えていただきたいのは、「価値を生んでいる業務」と、「価値を生みづらい業務」の見える化です。価値とは「付加価値」のことですが、ここでは意味合いが近い「粗利」に置き換えます。この粗利を生んでいる業務かどうかを見極め、粗利を生んでいる業務に集中することをお勧めします。粗利を産みづらい業務については、AI/ITでご説明します。

    ビジネスモデルの改善は、人材投資の「予算」をつくる仕事だとお考えください。

    3-2. AI/IT——人が人に向き合う時間をつくる

    次に、業務から時間を取り戻します。

    近年、生成AIをはじめとするツールの進化により、中小企業でも現実的なコストで自動化・省力化が可能になりました。書類作成、議事録、問い合わせ対応、データ集計といった領域は、着手すれば比較的短期間で成果が見えます。

    ここで重要なのは、空いた時間を「別の作業」で埋めないことです。捻出した時間を育成・対話・改善に再配分して初めて、AI/IT投資が人的資本経営につながります。

    ちなみに、社内にAI/IT人材がいると省力化・自動化は一気に進みます。最近はそのような人材の育成に活用できる助成金もありますので、うまく活用して投資額を抑えると良いでしょう(当社でもAI/IT人材の育成研修を承っています)。

    また、自社の粗利を生みづらい業務は、AI/ITを活用している外部事業者に委託することをおすすめします。特に外部委託(BPO)しやすい業務は、総務・人事労務・経理と、自社に専門人材がいない場合の採用・広報・マーケティングです。

    AIやITの活用は、人材投資の「時間」をつくる仕事です。

    3-3. 人材——生まれた余裕を、確実に投資へ回す

    ここでようやく、採用・育成・定着・評価といった人事施策が本来の力を発揮します。

    原資と時間が確保された状態で行う人材施策は、継続します。継続するからこそ、社員のスキルとエンゲージメントが積み上がり、それが生産性として返ってくる。この循環が回り始めた状態を、当社は人的資本経営と呼んでいます。

    人的資本経営を進めるには、お金と時間の余裕も大事ですが、人材戦略に沿った採用・育成・定着の取り組みを見える化することも大事です。

    4. どこから着手すべきか——4つの実施パターン

    3軸すべてを同時に動かす必要はありません。自社の状態に応じて、着手順を変えます。

    1. 忙しいのに利益が残らない → ビジネスモデルに重心。ここを放置したまま人材投資を増やすと、資金繰りを圧迫します
    2. 利益は出ているが、現場に時間がない → AI/ITに重心。短期で効果が出やすく、成功体験も得やすい領域です
    3. 時間はあるが、利益が残らない → ビジネスモデルに重心を置きつつ、人材も並行して取り組みます
    4. 利益も時間もあるが、人が採れない・育たない・辞める → 人材に重心。この状態であれば、人事施策が最も早く効きます

    多くの地方中小企業様は、1または2に該当します。つまり「人の課題」として相談に来られる案件の多くは、実は経営全体の課題なのです。

    5. 採用市場では、すでに差がつき始めている

    人的資本経営は大企業を中心に取り組みが進み、中堅・中小企業では遅れているのが実情です。そしてこの差は、採用市場で最も早く表面化します。

    求職者は、企業の情報開示・育成体制・働き方を比較して応募先を選びます。人への投資の姿勢を言語化し、発信できている企業とそうでない企業とでは、応募数そのものが変わります。「募集を出しても応募が来ない」という現象の背景には、待遇以前の情報格差があります。

    着手が遅れるほど、採用という入口で不利になる。これが、私どもが今、地方中小企業様に人的資本経営をお勧めする最大の理由です。

    ちなみに、採用市場で最も苦戦しているのは地場の中堅企業です。株式会社リクルートが実施した「企業人事が感じる人手不足実態調査2025」(https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001486/)によると、従業員数100名以上400名未満の企業では「人手不足を感じる」と答えた割合が86.0%にも達し、人手不足が顕著であることがデータかも見て取れます。

    だからこそ、今すぐ人的資本経営に取り組む必要があります。取り組みが遅れれば、その分だけ採用・育成・定着で不利になります。不利になるということは、自社に優秀な人材が来なくなるだけでなく、自社の優秀な人材が他社に移ってしまうリスクも大きくなります。

    私たちは、そのような地方の中堅・中小企業の皆さまに向け、人的資本経営のご支援を行っています。最初はどんなご相談でも構いません。「組織がなんとなく後ろ向き」「人の育て方がバラバラ」「仕組み化がうまくいかない」など、個別課題レベルの相談も大丈夫です。ヒアリングを通じて、何が本質的な要因か、そしてどのように進めれば最も効果が高まるかも含め、多面的なアドバイスをさせていただきます。

    6. よくあるご質問

    Q. 従業員20名程度の会社でも人的資本経営はできますか?

    A. できます。むしろ小規模であるほど、経営者の意思決定が現場に届くまでが速く、施策の効果が見えやすいという利点があります。当社自身も役員・スタッフ合わせて10名強の組織であり、自ら実験台となって各種の取り組みを実践しています。

    Q. 開示義務のない非上場企業でも取り組む意味はありますか?

    A. あります。開示は目的ではなく手段です。自社の人材の強みと課題を整理する過程そのものが経営の打ち手になり、採用広報・金融機関との対話・事業承継の場面で効いてきます。

    Q. 何から始めればよいか分かりません

    A. まずは現状の「お金」と「時間」の余力を把握することをお勧めします。ここを見える化するために、当社では無料のご相談も承っております。

    7. まとめ

    • 人的資本経営は、人材課題の解決だけでは完結しないことが非常に多いです
    • 中小企業で取り組みが止まる原因は、投資の原資となる「お金」と「時間」の不足にあります
    • だからこそ、ビジネスモデル(お金)× AI/IT(時間)× 人材(投資) の3軸で進める必要があります
    • 着手順は自社の状態で決まります。多くの場合、入口はAI/ITかビジネスモデルですが、人材も並行して取り組む必要があります

    当社は「経営のワンストップコンシェルジュ」として、人材課題の解決だけでなく、ビジネスモデルの改善やAI/IT導入まで一体でご支援しております。人的資本経営をテーマとした書籍『地方中小企業のための人的資本経営の教科書』の知見と、自社での実践をもとに、地方中小企業の人的資本経営を強力に推進いたします。

    「何から手をつければよいか分からない」という段階で構いません。まずはお気軽にご相談ください。

    まずは相談してみる

  • 「なぜ自社は人的資本の取り組みが進まないのか?」〜それは○○が原因です〜

    「なぜ自社は人的資本の取り組みが進まないのか?」〜それは○○が原因です〜

    2022年ごろから人的資本経営という言葉がにわかに注目を集め、大企業から中堅・中小企業にもその波が押し寄せています。そのような中、感度の高い経営者の方や、自社で人材を核とした経営に取り組みたい経営者の方は、すでに人的資本経営に取り組み始めています。

    しかし、人的資本経営に取り組んでも中々うまくいかないことが多いです。取り組む前は知識・認識・リソースなどのギャップに原因があることが多いですが、取り組み始めてからは別の部分に原因があることが多いです。

    では、人的資本経営に取り組み始めたものの、中々うまく行かない原因とは何でしょうか?

    本コラムでは、その点について詳しく解説します。

    経営者が気づかない、人的資本経営の取り組みにおける大きな落とし穴

    人的資本経営とは、「人材をコストと捉えず、資本と捉えることで、自社の生産性や持続可能性を高める経営の取り組み」であります。この言葉だけ見ると、非常に素晴らしい取り組みであります。ぜひうちの会社でもすぐに取り組みたい、という経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

    しかし一方で、人的資本経営の取り組みは非常に高度であり、実現には大きなハードルが待ち構えています。例えば拙著「地方中小企業のための人的資本経営の教科書」にも記載がありますが、知識・認識・リソースのギャップは人的資本経営推進の大きな壁となって立ち塞がります。つまり、人的資本経営に取り組むための知識が十分でない。人的資本経営をいますぐ取り組まなければいけないという認識が十分でない。取り組もうと思っても人材やお金の余裕が十分でない。こんな壁がいたるところに存在します。

    このように、知識・認識・リソースは大きな壁となりますが、これ以外にも落とし穴があります。それは「経営者の現状認識」です。

    例えば、当社(戦略デザインラボ)では、クライアント企業のエンゲージメントサーベイ(≒匿名の従業員満足度調査)を代わりに行うことがあります。そうすると、経営者の方が普段認識している「自社」や「経営陣」への満足度とは異なり、目を覆いたくなるような結果となることが珍しくありません。

    これには大きな原因があります。具体的には次のとおりです。

    • 経営者の視点が主観的であり、客観的に物事を把握できていない
    • 経営者に指摘する人がおらず、問題点や課題を見過ごしている
    • 経営者の頭の中にある自社の将来像が共有できていない

    特に「経営者に指摘する人がいない」という点は、多くの企業で共通しています。経営者は会社のトップであり、意識せずとも社内ではヒエラルキーが存在するため、わざわざリスクを冒してまで経営者に指摘する従業員や役員は少ない、ということです。

    人的資本経営の取り組みで最も必要なもの

    ではどのようにすれば良いか。それは「経営者の意識変革」です。

    具体的には、経営者という特権階級であることを一切廃し、社内外の意見に対し耳を傾けることです。中には辛辣な意見も少なくありません。例えば匿名アンケート調査などでは、「うちの会社には何も期待できない」といったような言葉も出てきます。このような意見に対し、目を背けずにしっかりと向き合う必要があります。

    そのためには、今までの「コンフォートゾーン(安全地帯)」から、「フィアゾーン(危険地帯)」へと進むことが大事です。つまり、自社の安全圏に留まっていないで、積極的に社員との面談を行って本音を聞き出す、社外の勉強会などで他社事例を学ぶ、などです。

    このように、人的資本経営に取り組むためには経営者の意識変革が非常に重要な要素を占めます。なぜなら、経営者が変わらずして従業員が変わるわけがないからです。

    実際に私どものご支援でも、1on1面談で経営者への不満が出てくることが非常に多いです。その時の経営者の方の反応としては「そんな不満を吐き出すぐらいならちゃんと仕事しろ」といった感じで、真面目に聞こうとしない方も多いです。

    そのような場合、たまに私から「あなたが真摯に意見を聞かないのであれば、社内の皆さんも聞くわけがないですよ」と強い言葉で意見することもあります。経営者の意識変革は、人的資本経営に取ってそれほど大事な要素なのです。

    まずは自己を変革するために

    自己変革のためには、先ほどの「フィアゾーンへ進む」こともおすすめですが、他にも様々な方法があります。その中で私がお勧めしているのは「コーチングやカウンセリングの技術を学ぶ」です。

    特に心理学などはこれからの経営にとって大事な学びの要素です。心理学を学んでおくと、「質問・傾聴」が自然とできるようになります。経営者の方は自身の想いが強いため、どうしても相手の話を聞かず自分の話を優先する方が多いです。それでは相手も「この人は話を聞いてくれず、一方的に自分のことを話すだけ」と捉えてしまいます。

    人的資本経営では、人を資本とみなすことがポイントです。であれば、何が課題でどのように成長していけば良いのか、その人の話をじっくりと聴き、質問を繰り返し、最善のロードマップを描いてあげることが大事です。

    私も昔は人の話を聴きませんでしたが、今はじっくりと聴き、相手にとってどのような質問を投げかければ成長するかを常に考えています。

    人が集まり、育ち、根付く会社への第一歩

    人的資本経営を進めるために、まずは経営者の意識変革がとても重要だというお話をさせていただきました。その第一歩として、「社内で従業員に声をかける機会を増やしてみる」ことを実施してみてください。思わぬ声を拾うことも多いはずです。

    そして、自社の課題が「経営者にある」場合は、いつでも私たちにご相談ください。人的資本経営の取り組みを内部だけで進めようとすると、かなりの確率で失敗します。なぜなら、社内からは変革につながる意見や取り組みがほとんど出てこないからです。

    私どもの会社も、常にインターンシップの学生や外部専門家が参画しており、非常に多様性のある会社になっています。この多様性が意識変革にとて非常に大事な要素となりますので、自社だけで問題を解決しようとせず私どものような外部の知見もぜひご活用ください。

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  • 人的資本経営、何から進めれば良いの?…にお答えします

    人的資本経営、何から進めれば良いの?…にお答えします

    「人的資本経営」という言葉、最近ニュースやビジネス誌で皆さまもよく見かけるのではないでしょうか。しかし、地域の中堅・中小企業の経営者様の多くは、少し複雑な思いでこの言葉を見ているのではと思われます。

    「大企業の話だろう」 「うちは人事部すらないのに、そんな余裕はない」 「重要性はなんとなく分かるが、具体的に何から手を付ければいいのか分からない」

    もしそのように感じられたとしても、それは無理もないことです。日々の業務に追われる中で、目に見えにくい「人」への投資を戦略的に行うことは、非常にハードルが高く感じられるからです。

    しかし、その上で断言します。人的資本経営こそ、リソースの限られた中小企業が生き残るための「唯一の生存戦略」なのです。本コラムでは、株式会社戦略デザインラボの実践事例とノウハウに基づき、中小企業がどのように人的資本経営の一歩を踏み出せばよいのか、その具体的な道筋をお伝えします。

    なぜ今、中小企業に「人的資本経営」が必要なのか

    まず、現状の厳しさを直視する必要があります。多くの中小企業経営者様が肌で感じていらっしゃる通り、経営課題のトップは「人」にあります。

    実際に企業の声を分析すると、経営課題の上位4つのうち、実に3つが人材に関する課題で占められているというデータがあります。具体的には「とにかく人手が足りない」「採用してもすぐに辞めてしまう」「リーダーが育たず組織の生産性が上がらない」といった悲痛な叫びです。

    さらに恐ろしいのは「黒字廃業」のリスクです。利益が出ているにもかかわらず、深刻な人手不足や後継者不在によって事業継続を断念せざるを得ないケースが急増しています。また、人材確保のために賃上げは不可欠ですが、それを上回る生産性の向上が伴わなければ、経営は圧迫される一方です。

    かつてのように企業が労働力を「選ぶ」時代は終わりました。これからは、企業が働き手から「選ばれる」時代です 。人材をコスト(費用)ではなく、投資すべき「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す経営への転換。それこそが、これらの危機を回避する唯一の道なのです。

    立ちふさがる「3つの壁」と、その乗り越え方

    では、なぜ多くの企業で取り組みが進まないのでしょうか。そこには3つの大きな壁が存在します。

    一つ目は「知識のギャップ」です。部分的に研修などを実施していても、網羅的・体系的に取り組めていないケースです 。

    二つ目は「認識のギャップ」です。重要性は頭で分かっていても、目先の売上などと比べて緊急性が低いと判断し、後回しにしてしまう心理的な壁です 。

    そして三つ目が「リソースのギャップ」です。人、モノ、カネ、時間といった余裕がなく、継続的な取り組みが難しいという物理的な壁です 。

    これらの壁を自社だけの努力で乗り越えるのは容易ではありません。しかし、正しい手順(ロードマップ)を知ることで、着実に前に進むことができます。

    取り組みを進めるための「6つのステップ」

    人的資本経営を体系的に進めるためには、拙著『地方中小企業のための人的資本経営の教科書』でも提唱している、以下のステップに沿って進めることが推奨されます。

    ステップ0:経営戦略との紐付け

    これが最も重要です。単に福利厚生を良くするということではありません。会社の「経営戦略」を実現するために、どのような人材に来てほしいか、育ってほしいか、定着してほしいかを定義することから始まります。

    ステップ1:ゴールの設定(To-Be)

    会社が目指す理想の姿を明確にします。例えば、「5年後に地域で知名度No.1になる」「10年後に地域課題を解決する複合体になる」といったビジョンです。そのビジョンに向け、どの役職・部門にどのような人材が必要になるのかを、見える化してみましょう。

    ステップ2:現状の見える化(As-Is)

    理想に対して、今の自社はどうなっているかを直視します。従業員の年齢構成、離職率、エンゲージメント(働きがい)の状態などを数値化して把握します。難しいようでしたら、採用・育成・定着のそれぞれにおける現状を箇条書きにしてみると良いでしょう。

    ステップ3:ギャップ分析と課題特定

    理想と現実の間にある「ギャップ」こそが、取り組むべき経営課題です。何が原因(今の状況を引き起こしている本質的な問題)で、何が課題(原因をもとに、これから何に取り組まなければいけないのか)を明らかにする必要があります。

    ステップ4:人材戦略の策定

    特定された課題を埋めるための戦略を立てます。採用を強化するのか、今いる社員の育成に力を入れるのか、あるいは定着率を高める施策を打つのかを決定します。

    ステップ5:アクションプランの策定

    戦略を具体的な行動計画に落とし込みます。アクションプランは「実行可能」な状態まで具体化することが大事です。いつ、どこで、誰が、誰と、何を、どのように、いつまでにが具体化できていると、実効性のあるアクションプランとなるでしょう。

    ステップ6:PDCAおよび人的資本開示レポート作成

    計画を実行した後に振り返りを行い、その結果を社内外に公表します。公表に際しては「人的資本開示レポート」が最も良い手段です。特に第三者の目を入れながら作成すると、客観性・信頼性のあるレポートとなります。

    従業員10名の会社でもできる! 戦略デザインラボの実践事例

    「手順は分かったが、やはり大企業向けの話ではないか?」 と思われるかもしれません。しかし、私ども株式会社戦略デザインラボでは、人的資本経営の取り組みを数多く実施しています。

    当社は役員・スタッフ合わせても10名強という規模ですが、「経営のワンストップコンシェルジュ」を掲げ、自らも実験台となって様々な取り組みを行っています。

    特に注目すべきは、トップダウンではなくスタッフの声から生まれた制度が多い点です。その代表例が「親子出社制度」です 。子育て中のスタッフが働きやすいよう、子供と一緒に職場に来て仕事ができる環境を整えました 。これは、従業員の多様なライフスタイルを尊重し、働きやすさを追求する「ダイバーシティ&インクルージョン」の具体的な実践と言えます。

    また、人材育成においては「週1回の社内勉強会」や「年2回の全体研修」を継続的に実施しており、学びと成長の機会を全員に提供しています。さらにユニークなのは、コンサルティング事業だけでなく、バルーンギフト事業も行っており、スタッフは自身の強みや生活に合わせて柔軟に活躍の場を選択できることです。

    これらの取り組みの結果、同社の従業員アンケート(エンゲージメント調査)では、「働きやすい環境」で4.5点、「人事評価・キャリア形成」で4.45点(5点満点)という高いスコアを記録しています。これは、規模が小さくても、経営陣が本気で向き合えば、従業員の働きがいは確実に向上することを示しています。

    「人的資本開示レポート」がもたらす4つのメリット

    人的資本経営に取り組んだら、その内容を「人的資本開示レポート」として社外に発信することを強くお勧めします。これは上場企業だけの義務ではありません。中小企業が自発的に開示することで、以下の4つの大きなメリットが得られます。

    一つ目は「自社のブランド力の向上」です。「人を大切にする会社」としての姿勢を明確に示すことで、顧客や取引先からの信頼感が高まります。

    二つ目は「社内エンゲージメントの向上」です。 会社が従業員のために何に取り組んでいるかを可視化することで、社員の帰属意識やモチベーションが高まります。レポート作成プロセス自体が、経営陣と社員の対話のきっかけにもなります。

    三つ目は「経営の改善ツールとしての活用」です。 レポートを作るためには、自社の現状を数値化(見える化)する必要があります。これにより、感覚的な経営から、データに基づいた客観的な経営へと脱皮することができます。

    四つ目は「ステークホルダーからの信頼性の向上」です。 金融機関や地域社会に対し、透明性の高い経営を行っていることをアピールでき、融資や連携などの面で有利に働く可能性があります。また、採用活動においても、求職者に対して「安心して働ける会社」であることを強力にアピールする材料になります。

    3年後ではなく、「未来への投資」を今すぐに

    人的資本経営は、一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、だからこそ「今」始める必要があります。「忙しい」を理由に先送りにすれば、3年後には手遅れになっているかもしれません。

    まずは、自社の経営戦略と人材戦略が紐づいているか、経営者様ご自身が問い直すところから始めてみてはいかがでしょうか。そして、もし自分たちだけで進めるのが難しいと感じたら、専門家の伴走支援を活用するのも賢明な判断です。

    株式会社戦略デザインラボでは、戦略策定から実行、そしてレポート作成までをワンストップで支援しています 。自社で実践し、成果が出ているノウハウに基づいた「血の通った支援」が可能です。

    人材への取り組みは「コスト」ではなく、企業の未来を創るための「投資」です 。 「人が集まり、育ち、根付く会社」へ。 貴社の未来を変える一歩を、今日から一緒に踏み出しましょう。

    人的資本経営に関するご相談、人材課題(採用・育成・定着)に関するご相談、そして人的資本経営に取り組む前の経営改善に関するご相談まで、お気軽にお問い合わせください。初回訪問によるヒアリング・見える化は無料で実施させていただきます。

    ご相談はこちら

    地方中小企業のための人的資本経営の教科書

    著者:株式会社戦略デザインラボ 代表取締役 中小企業診断士 岡本洋平

  • 最低賃金引き上げでどうなる? 優秀な人材を確保するための採用戦略

    最低賃金引き上げでどうなる? 優秀な人材を確保するための採用戦略

    中小企業診断士の岡本です。

    2025年10月3日から、全国で一斉に最低賃金の引き上げがありました。当社が位置する長野県において、従来の998円から1,061円へと、大幅に最低賃金が引き上げられました。

    これに伴い、地域中小企業側は対応に苦慮しています。それもそのはず、物価高による原材料高騰の影響も残る中、賃上げにも対応しなければいけないからです。

    今回は、最低賃金の引き上げで今後何が起こるか、そして地域の中小企業はどのように対応していけば良いか、をお伝えします。

    最低賃金の全国大幅引き上げで起こる変化

    まず、最低賃金の大幅引き上げにより起こる変化を考えてみましょう。

    長野県では、最新の有効求人倍率が1.24倍となり、昨年から徐々に低下しております。これは最低賃金引き上げ前の8月の数字であることから、おそらく9月と10月はさらに低下することが予想されます。

    この要因は2つあります。

    1つは、前述の通り物価高などコスト高によるものです。仕事はあるものの、コスト高により儲かる構造が作れない。つまり、ここに人を採用する決断が難しいため、求人に踏み切れないという悩みです。

    もう1つは、人材確保を諦める動きです。つまり、仕事が忙しくなっても今の人員体制で回せるよう、自動化・省力化を進める流れです。実は9月ごろから、こういった会社が徐々に増えてきております。

    この流れは長野県だけでなく、全国で共通すると考えられます。つまり、今後は有効求人倍率が大きく高まることはなく、横ばいか徐々に下がるのではないかと予想できます。

    求職者の質についての検証

    しかし、有効求人倍率は1倍を超えている限り、市場は売り手市場ということになります。すなわち、上記のような流れになっても「人手不足」は根本的に解決されず、慢性的に企業を悩ます要因となります。

    では、肝心の求職者の質はどうでしょうか。当社は採用支援で多くの実績があり、データも豊富ですので、その辺りのお話をさせていただきます。

    現在は求人媒体として様々なサービスがあります。ハローワーク、民間求人媒体(Indeed、engage、ジョブズゴーなど)、人材紹介、転職サービスなど、実に多くのサービスが存在しています。

    この中で「求職者の質」だけ考えると、人材紹介が最も高いと考えられます。なぜなら、社会人としてキャリアをしっかり積んできた人が多いからです。しかしその分費用がかかることに加え、自社に適した人材であるかどうかを見極めるのが難しいです。

    では民間求人媒体はどうでしょうか。従来は当社でもこれらの媒体を使うことをお勧めしていましたが、最近は質の低下が非常に目立ちます。応募自体は見込めますが、「社会人としてちゃんとした人」が来るかどうかは、本当にタイミング次第となります。

    最後にハローワークです。求人ではオールド媒体のように考えている経営者さんもいらっしゃいますが、ハローワークは私どもの会社では非常に信頼性があります。直近の雇用についても、ハローワークからの雇用が3件あります。

    良い人材を確保するための採用戦略

    では、良い人材を確保するためには、どのような媒体を使ってどのように自社の魅力を打ち出していけば良いでしょうか。求人をかけると1週間で5件以上の応募がある当社では、この点において鉄板の動線設計があります。それは、

    求人媒体の選定→求人票のブラッシュアップ→SNSへの誘導→Webサイトへの誘導→応募

    という流れです。

    まず求人媒体の選定では、当社はハローワークとIndeedをメインとして登録しています。前者は質の確保、後者は量の確保です。直近の採用では、前者から2名応募があって1名採用、後者から5名の応募があって0名の採用、でした。求人媒体は多ければ多いほど露出が増えるためメリットはありますが、その分だけ管理も大変であるため、まずはハローワークとIndeedから始めるのが良いでしょう。

    次に求人票のブラッシュアップでは、自社の特異性(他社との違い)を徹底的に訴求しています。例えば当社では、ミッション「世の中にあるギャップを無くそう」、社内の取り組みで最も重視する「学びと成長」、働く環境で他社にはない「親子出社制度」など、自社の特性を打ち出すことで「この会社は他社と違う」「自分もこういう会社で働いてみたい」という求職者のニーズに訴えています。

    次にSNSへの誘導です。当社では求人票にURLを記載してInstagramに誘導していますが、そこでは自社で働く人たちの様子や社内での取り組みを多く掲載しています。つまり、言葉だけでは伝えられない「安心感」や「信頼感」をInstagramで訴求しています。実はこのSNSが非常に大事な要素であり、採用でうまくいかない企業の多くがSNSで「安心感」や「信頼感」を訴求できずにいます。

    最後にWebサイトへの誘導です。この会社がどういう会社なのか、自分が働くことになったらどのようなキャリアを描けるか、などの疑問に答えるためのコンテンツを用意します。多くの企業さんでは採用ページが該当しますが、会社概要のページでも構いません。要は、会社として何を大事にしており、どのような方向に向かい、そして会社で働く人たちがどうなっていくかがイメージできるようであれば、代表メッセージだけでも十分に伝えられます。

    まずは自社の現状を「見える化」しましょう

    採用戦略を策定するにあたり、まずはじめに取り組んでいただきたいのは「自社の見える化」です。現状をありのままに見える化することで、理想の姿とのギャップが明確になり、何をどのようにすれば良いかが分かるようになります。

    例えば、採用を急いでいるのに応募がない場合、自社の魅力をしっかり伝えきれていないか、または自社の特異性が無いからかもしれません。そうなると先に取り組むべきは、採用施策よりも今自社で働いている従業員に向けた施策かもしれません。

    人材確保にあたり、私が一貫してお伝えしているのは「採用だけ見ている会社はうまくいかない」です。採用をうまく進めていくためには、育成や定着の取り組みも重要です。これらが揃ってはじめて自社の特異性が生まれ、他社との違いを打ち出せるようになります。

    そのためにも、まずは見える化から取り組んでみてください。そしてできれば、見える化した後に採用戦略だけでなく、自社の経営戦略に紐づいた「人材戦略」を作っていきましょう。それが人材確保を有利にする「人的資本経営」の第一歩となります。

     

    当社は人的資本経営のご支援実績が豊富なだけでなく、自社でも人的資本経営に取り組んでいます。人材戦略から採用・育成・定着の施策実行まで一貫してご支援を行い、自社の人材方針である「人的資本開示レポート」の作成も支援しております。

    人材で悩んだら、まずはご相談ください。貴社の現状をヒアリングさせていただき、画一的なご提案ではなく個別具体的な「実効性のある」ご提案をさせていただきます。

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  • 【レポート】中学生の職場体験学習を受け入れました

    【レポート】中学生の職場体験学習を受け入れました

    2025年7月1日(火)~3日(木)の3日間、信州大学教育学部附属長野中学校様より3名の生徒さんを受け入れ、職場体験を実施しました。

    今回の体験では、「会社/仕事を知る」「はたらくを知る」「自分を知る」と、日ごとに違う視点から“働くこと”に触れていく3日間となりました。
    それぞれの時間のなかで、生徒たちは自分の問いに丁寧に向き合いながら、考えを深めたり、これまでとは異なる角度から「働く」をとらえ直していく様子が見られました。

    ■1日目:「会社/仕事」について知る
    初日は、まず「今日の目標」を自分で立て、それを達成することを意識しながら1日をスタート。
    コンサルタントの仕事体験や、思考プロセスのワークを通して、情報を整理しながら考える力を育みました。
    実践を通じて、「聞く」と「やってみる」の違いを体感。最初にルールを決めて取り組んだことで、積極性も自然に引き出されていきました。

    ■2日目:「はたらく」について知る
    2日目は、「なぜその仕事をしているのか?」を深掘りするインタビュー体験や、SWOT分析・モチベーショングラフなどのビジネスフレームワークを使って、「自分と仕事のつながり」を考えました。
    スティックバルーン制作では、想いをカタチにする体験も。
    生徒さん同士が自然にフィードバックし合う様子から、安心できる場づくりの大切さを、私たちも改めて感じました。

    ■3日目:「自分」について知る
    最終日は、自分の強みや大切にしたい価値観を整理し、
    自分の中にあった「問い」とあらためて向き合い、答えを導き出す時間となりました。問いが深まった人、腑に落ちる形で答えにたどりついた人、それぞれに気づきがあり、「自分らしい答えを、自分の言葉で語る」姿がとても印象的でした。

    今回参加していただいた3人は、それぞれが「問いを持つ力」「気づきを自分のものにする力」に長けた方ばかり。
    「会社の雰囲気がとてもよかった」「もっとやりたい!」という感想をいただけたことが、わたしたちにとっても大きな励みとなりました。

    予測困難な時代だからこそ、問いを立て、思考し、自分なりの答えを導き出す力はとても大切。
    そんな大事なスキルの入り口を、一緒に体験できたことに感謝しています。

    3日間、本当にありがとうございました!

  • 【登壇情報】AI活用セミナーに登壇しました

    【登壇情報】AI活用セミナーに登壇しました

    2025年6月25日(水)、長野アークス会議室にて開催された「卸売中小企業向けAI活用セミナー」に、弊社代表・岡本が講師として登壇いたしました。

    今回は、弊社岡本と、株式会社mobの小野氏によるダブル講演形式で行われ、AIの基本から現場での活用事例までを、2人の視点からお届けしました。

    岡本からは、AIの基本的な仕組みや生成AIの動向、ビジネスでの活用場面についてご紹介。
    実際に生成AIを使ってプロンプト(指示文)を入力し、その場で回答を得るデモンストレーションを行い、「こんなふうに使えるのか!」というリアルなイメージを参加者の皆さまに体感していただきました。

    続いて登壇した小野氏からは、生成AIとMBTI(性格タイプ診断)を組み合わせた職場での人間関係づくりの実践例が紹介されました。
    業務効率化だけでなく、組織のなかの“人と人”の関係性をスムーズにするツールとしてのAI活用に、参加者の皆さまも強く興味を持たれていました。

    「思っていたよりも身近に感じた」「まずは使ってみたい」
    という声が多く寄せられ、AIの活用に対する第一歩を踏み出すきっかけになったのではないかと思います。

    今後も、AIを含めた中小企業の現場で役立つ実践的な工夫や事例をお届けしてまいります。
    セミナー・勉強会などのご依頼もお気軽にご相談ください。

    ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。